东西精舍:中日文学文化比较论
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日文序言

東アジアから世界へ——寇淑婷氏の拓く通路

[日]島村 輝(フェリス女学院大学教授)

本書は寇淑婷氏の、この間多年にわたる日中文学·文化に関する比較研究の成果であり、その達成の充実ぶりとともに、学究としての前途の展望を示した力作である。

寇氏は2016年から17年にかけて、筆者の勤務するフェリス女学院大学大学院に外国人客員研究員として在籍した。当時寇氏が手掛けていたのは、本書の劈頭に論じられている、鄭成功を主人公とする文学作品におけるその形象の比較研究だった。その研究態度はたいへん熱心かつ真摯なものであり、指導を担当した筆者も教えられるものが多くあった。フェリスでの留学生活を終えて本国に帰国されてからはさらに研鑚を重ね、その後母校の北京師範大学に博士論文を提出して、博士の学位を取得され、現在は四川大学で研究と後進の指導の当たられていることは、作者簡紹に示されている通りである。

本書の覆う分野は上記の鄭成功文学の研究に留まらず、日本人による泰山·成都の表象の探求、また近代文学の分野では、アジア太平洋十五年戦争後の日本文壇にあって、異色の才能を発揮した有吉佐和子の本格的研究など、多方面に及ぶ。また理論面では、古代中国の体系的文学理論書である『文心雕龍』の日本人による受容の仕方を、時代を追って整理した興味深い研究が含まれている。こうした幅広い領域を俯瞰しつつ寇氏が示すものは、単に日中双方に関連の深い文学や文学者についての個別研究に留まらず、この書名が示唆するように、さらに広くそれらを世界的な広がりの中に再配置しようとするところであろうと考える。

日本留学中、寇氏は鄭成功の跡を訪ねて、平戸·長崎を訪れたことがある。後に、その印象は深く鮮烈だったという感想を伺った。平戸といえば、鄭成功が活躍する100年ほど前、中国出身の私貿易商人として日中間の往来に関わった人物·王直が思い出される。

有能で野心的な貿易商人であったとも、歴史に謂う「後期倭寇」の有力な頭目であったとも評価されるこの人物は、1543年、種子島にポルトガル船が入港し鉄砲が伝来したとき「我明国之儒生而名五峰」と名乗って、ポルトガル人と日本人との間を仲介したと伝えられる。王直は平戸に住んだこともあるが、彼が拠点とした長崎県五島列島の福江島には、その貿易遺構とともに、航海の安全を祈るために建立した「明人堂」も現存している。未だに確固たる評価の定まっていないこの時代の東アジア交流史を探求していくことで、ヨーロッパからインド、東南アジアへ、さらにはアメリカ大陸へと連なる世界図の広がりを展望させる可能性を、寇氏の研究は示していると言っても過言ではなかろう。

本書の上梓を心から慶ぶとともに、寇氏のますますの精進を期待するものである。

2020年12月26日記す